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学術会誌

『地球環境』 Vol.01 No.1

創刊にあたって

近藤次郎

 わが国では、国立研究機関や大学などに所属する研究者で地球環境の問題に関心をもち、また優れた研究成果を上げている方が少なからずおられる。しかるに、例えば炭素循環におけるグレート・ミッシングとか "Think Globally, Act Locally." など、わが国から発言する言葉が少ないため、日本には研究・調査への経済援助だけを求められているのは誠に残念である。1992年より環境庁でも地球環境研究総合推進費を支出して現在に至っている。この6年間で累積100億円を越え、平成8年度の予算は26億円である。この措置によって多くの成果を上げている。

 そこでこの度、地球環境問題に限定した出版物を刊行することになった。これは甚だ喜ばしいことである。既に多くの研究者が存在しているが、地球環境問題というのは大気圏、地圏、水圏、生物圏を総合的に研究するもので、これらはそれぞれ関連しているので、他の分野の研究の状況を知ることも研究者にとっては大切である。例えば、二酸化炭素による地球温暖化問題を研究して将来の気候の状況を研究している学者も、森林や砂漠の状況がどのように変化しているかを知ることは大切である。また、それらの状況を知るための手段として、リモートセンシング技術が現在どのように進歩しているか、とか日本が1996年に打ち上げる先端技術の地球観測衛星 ADEOS(Advanced Earth Observing Satellite) がオゾン、二酸化炭素その他何を計ろうとしていて、どのようなデータが将来自分の研究に一層役立つかなどという知識をもつことはそれぞれの研究に大いに役立つと思われる。現在は地球環境の研究者があらゆるところに存在して、またその研究内容も極めて多くの雑誌に発表されるので、全ての論文に目を通すとなると自分の研究が先に進まない程である。言葉を変えれば地球環境に関係のない学問をやっておられる研究者は少ないとさえ言える。

 そこでこの度、2通りの雑誌を発行することにした。ひとつは和文の雑誌で、ここではむしろ地球環境問題に関する各種の情報、自然保護の国際会議、あるいは酸性雨についての総説とか生物多様性に関連した論説等が採り上げられ、できるだけ読み物としても広く利用されて、多くの方々に地球環境問題に関連のある常識や最新の科学的知見、国際的な動きなどを紹介して頂きたいと望んでいる。もう一つは英文誌である。現在は若い研究者が研究論文を発表しても、海外の学会がこれを受け取ってから査読をして掲載するまでに時間がかかってしまう。この方面は研究者が多いだけに競争も激しい。そこでできるだけ早く第1報を出しておくことは、知的所有権とまではゆかなくとも、わが国の研究者のプライオリティを保護する上でも極めて大切なことである。

 このために例えば Global Environmental Letter とか Scientific News Letter というような欄のある出版物が望ましい。それと同時にわが国独自の研究についても公表する場がほしいと思う。この欧文誌は広く海外にもネットワークを通じて、予算の許す限り広汎に頒布したいと願っている。国際的にも評価を高めて優秀な論文が投稿されるようにしたいものである。しかしながら経費の問題があるので、論文掲載は当分の間は本会に会費を払った正会員のみに留めておきたいと考えている。このような雑誌が出版されたことは、読む側にとっても誠に喜ばしいことである。海外ではヨーロッパの AMBIO とか Earth Watch などがあるが、地球環境問題 (global environmental issues) といってもやはり範囲が広すぎるので、単独の雑誌はあまり見当たらない。英文誌にはこのような意味でも、世界の人々に日本から発信する研究成果、あるいは主張、論説などを理解して貰いたいと希望している。こちらの方はもちろん、論文の内容が新しく、しかもその主張が正しいことが必要で、そのためには慎重に編集委員会で討議され、また専門家によって査読も行われるに違いない。

 地球環境問題は、自然科学だけでなく人文社会科学にも関係が深い。後者は human dimension と称して採り上げられているし、自然科学の方面では国際科学委員会 ICSU(International Council for Scientific Unions) の IGBP(International Geosphere-Biosphere Programme、地球圏--生物圏国際協同研究計画) などが進行しているし、また UNESCO でも、MAB(Man and Biosphere) というプログラムもあって、この方もそれぞれ活発な研究発表が行われている。この度の雑誌の発行は、その意味では出遅れていると言わざるを得ないが、しかし本誌が発行されて日本の研究者にも広くゆきわたり、かつ海外の研究者にも新しい知見を総合的に与える雑誌としてその評価を高めてほしいと切に望むものである。

 

目次
創刊にあたって
file01-01.pdf
近藤次郎
巻頭言
file01-02.pdf
吉野正敏
解説
IGBPについて
file01-03.pdf
大島康行・吉野正敏
アジア太平洋地域における地球環境研究の展開
file01-04.pdf
渡辺和夫
科学は政策になにを伝えたか--IPCC第2次評価報告書
file01-05.pdf
西岡秀三
START-The Road from Bellagio
file01-06.pdf
Roland J. Fuchs
WCRPについて
file01-07.pdf
松野太郎
HDPの今後のあり方
file01-08.pdf
田中啓一
アジアモンスーン/ENSO研究をめぐる世界の動向
file01-09.pdf
安成哲三
LUCC(土地利用・被覆変化)について
file01-10.pdf
北村貞太郎・大坪国順
地球環境研究の総合化に向けたモデリングの動向--科学と政策をつなぐプラットホームづくりの試み--
file01-11.pdf
森田恒幸・松岡 譲
総説
総合的な砂漠化防止に向けて
file01-12.pdf
松本 聰
連絡記事
今後の本誌の編集方針について
会員募集について
国際地球環境に関する今後の行事予定
国際交流研究制度--エコ・フロンティア・フェローシップ(EFF)第1期生の研究発表会について
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第二次報告について
アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)第1回政府間会合の結果について
人間・社会的側面からみた地球環境問題の今後の研究のあり方に関する報告書の公表について
 
地球の声・人の声
file01-14.pdf
国際交流研究制度-エコ・フロンティア・フェローシップ(EFF)-
file01-16.pdf
第1期生の研究発表会について
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第二次報告について
アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)第1回政府間会合の結果について
人間・社会的側面からみた地球環境問題の今後の研究のあり方に関する報告書の公表について
平成8年度地球環境研究総合推進費研究成果発表会
file01-18.pdf
国際地球環境に関する今後の行事予定
file01-15.pdf
刊行物寄贈のお願い
file01-17.pdf
次号の内容について
file01-19.pdf
今後の本誌の編集方針について
file01-13.pdf
国際環境研究協会会誌「地球環境」について
file01-22.pdf
和文誌「地球環境」投稿規定
file01-21.pdf
編集後記
file01-20.pdf